だが、
まず理解しなければならないのは、
あなたは催眠術にかけられているから、
その催眠を解くプロセスを
通り抜けなければならないということだ。
いいかね、
あなたは条件付けられているから、
その条件付けを解かなければならない。
死がやって来つつあるのだということを
覚えておきなさい。
死は今日は起らないと考えてはいけない。
死はいついかなる時でも起こりうる。
実際、
すべてのものごとはつねに今起こる。
種子は今死に、
つぼみは今花になり、
鳥は今鳴きはじめる。
すべてのものごとは
今この瞬間がもたらす空間でのみ起こる。
過去では何も起こらず、
未来では何も起こらない。
すべてのものごとは
つねに現在において起こる---
ものごとはそのようにしか起こらない。
現在が存在する唯一の時間だからだ。
過去とはあなたの記憶にすぎない。
そして未来とは
あなたの空想にすぎない。
ところがあなたは
過去に生きるよう
催眠術をかけられている。
未来に生きるよう
催眠術をかけられている。
過去か未来のどちらかを選ばせはしても、
社会は
あなたが現在に生きることは許さない。
キリスト教徒や
ヒンドゥ教徒や
イスラム教徒たち---
彼らは過去に生きるよう
人々を条件付ける。
彼らの黄金時代は過去にあった。
共産主義者、
社会主義者、
ファシストたち---
彼らは未来に生きるよう
人々を条件付ける。
彼らの黄金時代は未来にある。
ユートピアがやって来つつある。
「革命が起れば、
本当にいきいきと生きることができる。
そうなったら黄金時代が訪れる。」と。
人は実在しない過去に連れてゆかれるか、
あるいは、
やはり実在しない未来に連れてゆかれる。
どの社会も現在に生きなさい、
今ここを生きなさいとは教えない。
サニヤシンであるとは、
真の探求者であるとは、
今ここを生きるということだ。
そして今ここを生きる以外に生はない。
だが、
そうするためには、
かけられた催眠を
解かなければならない。
あなたは機械ではなく、
人間にならなければならない。
あなたはもう少し
意識的にならなければならない。
あなたは意識的ではない。
私は死んでゆく男のそばに
座っていたことがある---
彼とは同じ大学の教授仲間だった。
彼は輝かしい経歴の絶頂にあった。
ところが、
そのとき彼は心臓発作に襲われた。
心臓発作はいつも
人が頂点を極めたときにやってくる。
成功の後には
つねに心臓発作がつき物だ。
成功をおさめたあと、
他に何が得られるだろう?
そこで彼は心臓発作を起して
死の床についていた。
私は彼に会いに行った。
彼は深い悲しみに沈んでいた---
誰が死を望むだろう?
彼は絶望に打ちひしがれ、
悲しみに悶えていた。
私は彼に言った。
「心配することはない。
君は死んだりしないよ」
彼は言った。
「何を言ってるんだ?
医者たちはだよ、
医者たちは口をそろえて
回復する見込みは
まったくないと言ってるんだ。
君は何を根拠に
僕が死なないというのかね?」
私は言った。
「君はそもそも
死ぬことなどできないよ。
というのも、
君は一度も生きたことがないからだ。
君は死ぬための
第一条件を満たしていない。
この50年間、
君は夢遊病者のように生きてきた。
君は夢を見ていたんだ。
君は一度も生きたことがない。
私は君を何年も見守ってきたんだ」
彼はショックを受け、
腹を立てた---
あまりに腹を立てたので、
しばらくのあいだ
死のことなどすっかり忘れてしまった。
怒りに燃えた目で
にらみながら彼は言った。
「死んでゆく人間に向かって
それはないだろう。
少しは思いやりがあっても
いいじゃないか。
どうしてそんなに
ひどい態度をとるんだ?
死んでゆく相手に向かって
大した哲学を並べるじゃないか---
『君は一度も生きたことがない』だって。
こんな時に
よくそんなことを口にできるね?」
私は静かに聴いていた。
私はひと言もしゃべらず
黙っていた。
すると激しい怒りが消えて、
彼は泣き出した。
彼の目には涙があふれた。
彼は愛を込めて私の手を握ると、
こう言った。
「君が正しいのかもしれない。
私は一度も
生きたことがなかったんだ。
たぶん君は不作法じゃなくて、
真実を言っただけなんだ。
それに私にこんなことが言えるのは
君だけだ。」
そのあと深い感謝が湧き起こり、
しばらくのあいだ、
その顔にぱっと光がさすのが見えるほど
彼は意識的になった---
光がそこにあった。
彼の存在はオーラに包まれていた。
そして彼は「ありがとう」と言った。
その夜、彼は死んだ。
私は最後の瞬間まで彼のそばにいた。
彼は言った。
「もし君がここにいなかったら、
私は生を取り逃がしてきたように、
死もまた取り逃がすところだった。
だが、私は意識して死んでゆく。
少なくとも一つだけ嬉しいことがある---
私は無意識のまま死んでゆくのではない。」
そして彼の死は美しかった。
彼は何も思い残さずに息を引き取った。
彼は安らかに死んでいった。
彼は「ようこそ死よ」と言わんばかりの心境で
死んでいった。
彼は感謝に満ちて死んでいった。
彼は祈りのうちに死を迎えた。
彼の次の生はきっと必ず
異なる質をおびるにちがいない。
死がそうまで美しければ、
その死はあなたに新しい生をもたらす。
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